こどもの矯正治療
「矯正治療と年齢」との違いは?
早期発見、早期治療は、腫瘍や感染症をはじめとする疾患に対する基本原則です。ところが、不正咬合に関していえば、早期発見はともかく、早期治療あるいは早期介入の是非については必ずしも明確な答えが得られていません。
以下に私たちが提唱する診療ガイドラインにみる治療のタイミングについてご説明いたします。
このガイドラインの特徴は、上あごと下あごの不調和(ずれ)の程度に応じて矯正治療のタイミングを定めることにあります。上あごと下あごの不調和の程度は、レントゲン検査を受けることにより正確な診断が得られます。
上あごと下あごの不調和が軽度~中等度の方は、二段階の治療の概念に基づいて少年少女期における早期治療(第1期治療)と、思春期後期以降における晩期治療(第2期治療)とに明確に分離した治療をおすすめしています。第1期治療開始のタイミングは上下永久前歯4本が完全萌出する時期を原則とし、第2期治療開始のタイミングはあごの成長(顎骨成長)がおおむね終息する思春期以降を原則としています。
一方、重度の不調和が認められる方には、先の見えない治療を避けるために、原則として第1期治療は行わず、顎骨成長が終るのを待って、思春期後期以降に晩期治療(外科矯正治療)を適用することをおすすめしています。
また、中学時代に相当する思春期は心身の変動が著しく、受験勉強などの社会環境も少なからず心理的負担を及ぼす要因になっていることと、保護者の目も行き届かなくなるため、一般的には矯正治療への協力度が低下し、頻回の食事に伴ってむし歯になりやすくなる時期でもあります。この時期における矯正治療は旺盛な成長を利用できるというメリット以上に、往々としてリスクの方が高いと考えられます。ですから、思春期性最大成長に相当する中学生の時期は矯正治療を避けることをおすすめしています。
すべての患者さんに良好な結果を確実にもたらすために、患者さんに応じて早期治療と晩期治療を適切に組み合わせることによって、それぞれの利点を最大限に利用し、それぞれの欠点を最小限に抑えます。
つづいて、具体的には、どのような歯並びが危険性の高い不正咬合であるかご説明いたします。
リスクの高い不正咬合
- 1. 下あごの側方偏位
-
かみ合わせの干渉(咬頭干渉)や顎変形などに伴って下あごが左右いずれかの方向に偏位している状態を指します。いずれは重度の顎変形や顎関節機能障害に至る危険性があります。
- 2. 前歯の外傷性咬合
-
前歯の干渉(早期接触)を伴ううけ口(反対咬合)に多く認められ、下顎前歯の歯肉ラインの低下(歯肉退縮)と歯槽骨吸収が生じ、かみ合わせ(顎位)が不安定になるとともに、咀嚼運動にも変調をきたす恐れがあります。
- 3. 奥歯(大臼歯部)の鋏状咬合
- 大臼歯でのかみ合わせがとれないことによって(上顎臼歯の頬側転位と下顎臼歯の舌側転位に伴って、臼歯部での咬合支持が失われることによって)、上顎咬合平面の左右傾斜が生じることと、顎関節への過剰な負担が懸念されます。
- 4. 上顎犬歯の異所萌出
-
上顎犬歯の位置および萌出方向の異常を示し、上顎前歯の歯根吸収をきたす危険性があります。
- 5. 大臼歯の深部埋伏
-
発生頻度は低いものの、臼歯部での咬合支持は失われ、かつ対合歯(反対側のあごの歯)の挺出によって上顎咬合平面の左右傾斜をきたす危険性があります。
- 6. 著しい上顎前歯の突出(出っ歯)
-
重度の上顎前突の場合、事故などに伴って上顎前歯を破折する危険があります。
不正咬合のリスクの高さは、矯正治療の緊急度が高いと言い換えることもできますが、それは見た目のひどさとは必ずしも一致しません。たとえば、明らかにひどいような反対咬合であっても、上述したような問題点が伴わない場合には、治療の必要性があるにしても、必ずしも緊急度が高いとはいえません。
◎まとめ
- むし歯や歯肉炎を予防するための口腔ケアは下顎の6歳臼歯萌出前の乳歯列期から開始することが望ましいです。
- 上顎と下顎の不調和の程度に応じて矯正治療のタイミングや内容が異なります。
- 第1期治療のタイミングは上下永久前歯4本が完全萌出する時期を原則とします。
- 中学生に相当する思春期における矯正治療を避けることを原則といたします。
- 第2期治療のタイミングは顎骨成長がおおむね終息する思春期後期以降を原則とします。